大判例

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大阪高等裁判所 昭和29年(う)1313号 判決

所論は要するに、原判決は、被告人李永右及び同李錫鴻の各偽造「光」売り渡しの事実を認定し、前者からは金五万七千七百五十円、後者からは金六万六千円を各追徴した。しかし本件のように犯則物件が転々として売渡された場合には、その追徴は最後の売主だけから為さるべきものであつて、売主全員から為さるべきものではない、けだし、若しかかる追徴が許されるものとすれば、国家は犯則物件の価格以上の金額を追徴し不当に利得する結果となるからである。従つて最後の売主でない被告人等から各その価格を追徴した原判決には追徴に関する法令の適用を誤つた違法があると言うのである。

よつて案ずるに、たばこ専売法第七十五条第一項に、「第七十一条、第七十二条第一項若しくは第二項又は第七十三条第四号から第七号までの犯罪に係るたばこ、………製造たばこ、……は没収する。」と規定し、同条第二項に、「前項の物件を他に譲り渡し、若しくは消費したとき又は他にその物件の所有者があつて没収することのできないときは、その価格を追徴する。」と規定している法意は、国家が右のごとき犯則物件又はこれに代るべき価格が犯則者の手に存在することを禁止し、国家によるたばこ専売の実を厳に励行しようとする趣旨であると解せられるから、犯則物件が転々譲渡せられた場合においてこの趣旨を貫徹するには、右の価格につき犯則者全員に対し等しく追徴の言渡を為し、その共同連帯の責任において納付せしめるのを至当と考えられるのである。ただし、この場合国家は没収追徴を幾重にも科し、本来没収せらるべき犯則物件の価格以上に利得すべきではないから、犯則者の一人が犯則物件の全部又は一部を没収せられ、あるいはその価格の全部又は一部を納付したときは、その部分につき更に他の者に重ねて没収又は追徴を科し得ないものと解しなければならないこともちろんである(大審院昭和三年二月三日言渡判決、同院昭和七年九月二十二日言渡判決、当裁判所昭和二十九年六月二十九日言渡判決等参照)。ところで本件についてこれを見ると、本件犯則物件である偽造「光」は各犯則者である被告人李永右より被告人李錫鴻、同人から更に被告人馬隆彦、最後に被告人金教鶴と転々譲渡せられ同人の手裡にある時これが専売監視により押収せられるに至つたことは記録により明らかであるが、未だ右物件が現実に没収せられ又はその追徴金が納付せられた等の事実は認められないところであるから、原判決が被告人等各自に対し独立して判示のごとき追徴を科したのは、正当と言うべきであつて、原判決には所論のごとき違法はないから、論旨は理由がない。

弁護人Bの控訴趣意について、

所論は要するに、原判決は被告人が日本専売公社又はその指定した製造たばこの小売人でないのに金教鶴に対し製造たばこ三千三百個を販売した事実を認定し、これに対したばこ専売法第七十一条第五号、第二十九条第二項を適用して被告人を罰金二万円に処した。しかし、本件製造たばこが専売公社の売り渡さない偽造「光」であることは記録により明らかであり又たばこ専売法第二十九条第二項にいわゆる「製造たばこ」とは、専売公社の売り渡した製造たばこに限られ、「公社の売り渡さない製造たばこ」はこれに含まれないものと解すべきである(同条のたばこ専売法上の位置、同法第六十六条第一項には「公社の売り渡さない製造たばこ」と規定されている点、若し第二十九条第二項の「製造たばこ」に「公社の売り渡さない製造たばこ」を含むとすれば、「公社の売り渡さない製造たばこ」の違反販売者に対する罰則は第二十九条第二項と第六十六条と重複する不都合を生ずる点等から見てもかく解せられる)から、右原判決の法令の適用には違法があると言うのである。

しかし、たばこ専売法第一条第三項にこの法律において「製造たばこ」とは葉たばこを主原料とし、喫煙用、かみ用、又はかぎ用に供しうる状態に製造したものをいうと規定しているから、同法第二十九条第二項の「公社又は小売人でなければ製造たばこを販売してはならない」との規定におけるいわゆる「製造たばこ」とは、専売公社の売り渡した製造たばこのみならず、又「公社の売り渡さない製造たばこ」をも包含指称するものと解すべきことは極めて当然のことである。更にこのことは、同法第六十六条第一項には、特に、「公社の売り渡さない製造たばこ」と明記されているのに、同法第二十九条第二項には、ただ「製造たばこ」と規定するだけで、何等特別の制限を設けていない点、右第六十六条第一項はその犯則物件の面からその所有、所持、譲り渡し等を禁止している規定であるから、同項にその譲り渡しの禁ぜられる製造たばこについては、特に「公社の売り渡さない製造たばこ」と規定し、その犯則物件の種類属性等の点につき制限を加えているに反し、同法第二十九条第二項は、専売公社又はその指定した小売人以外の者による製造たばこの販売を禁止し、その販売人の資格の面から製造たばこの販売を規正しようとする規定であるから、その販売せられる製造たばこが公社の売り渡したものであると、公社の売り渡さないものであるとを問わず、公社又はその指定した小売人以外の者の販売した製造たばこについては等しくその規正を受けるものであると解せられる点から見ても明白である。しかして右の場合、これ等二個の法条は各々その規正しようとする対象とその目的とを異にするものであることはもちろんであるから、公社又はその指定小売人でない者が公社の売り渡さない製造たばこをその情を知りながら他へ販売する場合、同時に右第二十九条第二項及び第六十六条第一項に違反する二罪の成立することも、また多言を要しないところである。すると原判決が専売公社又はその指定した製造たばこの小売人でない被告人の、公社の売り渡さない製造たばこをその情を知らず他へ売り渡した本件所為につき、たばこ専売法第二十九条第二項を適用したのは正当であつて、原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

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